皮膚科専門医である山本綾子先生の
『アトピー発生機序理論』
の第4回目をお伝えいたします。
山本先生は、アトピー性皮膚炎の発生と身体の使い方に深く結びつきがあると考えられており、その理論をもとに患者さんの治療にあたっておられます。この考え方は、アトピー性皮膚炎で辛い思いをしているたくさんの患者さんに知っていただきたいです。また、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対するリハビリテーションを学んでいく理学療法士や作業療法士にとって、知らなければいけない重要な考え方だと強く感じます。
皮膚科専門医 山本綾子先生
第4回目は、
『脱毛にもつながる脂漏性皮膚炎』
どんなにシャンプーをしても頭からフケのようなものが出る
アトピー性皮膚炎と並び、皮膚科を受診する人に多いのが、脂漏(しろう)性皮膚炎です。顔がカサカサして真っ赤になっていたり、どんなにシャンプーをしても頭からフケのようなものが止まらなかったり。浸出液(しんしゅつえき/黄色っぽい汁)が出るほどひどくなることもまれではありません。
ステロイドの塗り薬を処方されると改善するものの、やめるとすぐに症状をぶり返す。そんな悩みを抱えるビジネスパーソンも決して少なくないはずです。
実はこれも、「アトピーの湿疹はなぜその部位に出るか?」という湿疹のルールであるアトピー発症機序理論を応用すれば解決法が見えてきます。今回は特に、頭の脂漏性皮膚炎・慢性湿疹(アトピー性皮膚炎によるものも含める)を見ていきましょう。
ビジネスパーソンによくある脂漏性皮膚炎とは?
頭部や顔面、腋窩(えきか/わきの下のくぼんだ部分)など皮脂分泌が盛んな部位(脂漏部位)や、頸部、腋窩部、陰股部など皮膚が密着して摩擦する間擦部(かんさつぶ)に起こる、カサカサや赤みを脂漏性皮膚炎と呼びます。皮脂分泌が多い状態になると、皮膚常在菌である真菌(カビ)により皮脂が遊離脂肪酸に分解され、それが皮膚を刺激し、炎症を引き起こすとされています。
簡単に言えば、油っこくなりやすい顔(特に眉のあたりや鼻の脇~ほうれい線のあたり)や頭に生じやすい赤みやカサカサのことです(胸や脇に生じることもありますが、外来で診察していて圧倒的に多いのが、顔や頭です)。
一般的には、ビタミンB2、B6の内服やステロイド外用、抗真菌剤外用で治療します(ステロイド外用の代わりにプロトピックを使うこともあります)。
乳児期と思春期以後の成人がよく発症するのですが、乳児型と成人型では臨床経過が少し異なります。乳児型は生後2~4週くらいから起こり、多くは生後8~12カ月で自然軽快します。これは生まれたばかりの赤ちゃんは生理的に皮脂分泌が盛んなためです。程度の差はあれども、かなりの赤ちゃんに見られます。
それに対し、成人型では、慢性かつ再発しやすいのが特徴です。
ここでは、なかなか治らない成人型にフォーカスしましょう。
首の後ろの谷折り線
症状が軽い人は、後頭部の首の付け根だけがかゆくなったり、カサブタ様のものができたりします。症状が広範囲になると、頭皮全体にフケのようなものができたり、浸出液(汁)が出たりします。本当にひどい場合、頭皮の炎症が強すぎて、その部位の髪の毛が抜けてしまうこと(脱毛)もあります。
一般的に皮膚科ではステロイドのローションが処方されますが、いろいろな皮膚科を受診してもなかなかすっきり治らないというお悩みの患者さんがよく私を受診してくれます。
そんな患者さんたちの首をよく診察してみると、このような特徴があります。
これは首の後ろの深いシワです。
私がお腹に名づけた「谷折り線」(関連記事)と場所は違えど、そっくりです。「首の後ろの谷折り線」と呼んでいますが、お腹にできる谷折り線同様、「首をその場所で折り曲げていますよ」という証拠です。
では、どのような姿勢でできてしまったシワかと言うと、
こんな姿勢を日常生活の中で知らず知らずによくやっている人がたくさんいるのです。
実際、この写真の患者さんには、「このような姿勢をしてください」とお願いしたのではなく、「前を向いて普段通りに座ってください」と伝えただけです。
ご本人も「これが自分の首?」と大変驚いていらっしゃいました。
頭の脂漏性皮膚炎の患者さんにはお腹の谷折り線がある
ここで、前回解説した、背骨のS字カーブについてもう復習します。
背中の骨、脊柱(せきちゅう)は、交互に前後に弯曲(わんきょく)して「S字カーブ」を描いています。首と腰で前弯(前に凸)となり、脊椎(背骨の骨)が首から腰までつながっています。この弯曲は、垂直に加わる荷重(頭の重み)を分散させて、できるだけ特定の場所だけに負担を集中させないように、体を守っているというのは前回の解説どおりです。
前出の写真のように首の後ろで「く」の字のような急カーブになると、首本来のなだらかなカーブではなくなり、首に非常に負担がかかります。また、急カーブで首を曲げると、首以外のどこかの部位で不自然なカーブが生じるはずですね。
ではその部位はどこか? 実は、お腹なのです。
頭のひどい湿疹で悩まされている患者さんには、ほぼもれなくお腹の谷折り線があります。湿疹の症状が軽い人は深いシワにまでなっていなくとも、「いつもお腹をこの部位で折り曲げている」ことを示すような皮膚表面のキメの壊れや色素沈着があります。
つまり、頭の脂漏性皮膚炎の患者さんは、お腹の谷折り線ができてしまうほど、お腹を潰すような姿勢をしているんです。すると背中が丸まり、肩が前に出ているので、顔を前に向けようとしただけで、首の後ろに「く」の字のような急カーブができてしまう。これをずっと続けていれば、首の後ろに谷折り線ができてしまいます。
ビタミンBは腸で作られる
ところでなぜ、脂漏性皮膚炎と診断されると、皮膚科ではビタミンB2、B6が処方されるのでしょう?
治療として処方されると、食事としてビタミンB2、B6の摂取量が足りなかったのかな? と思いがちですが、実はビタミンB2、B6は腸内細菌で作るため、極端な偏食をしない限り不足しにくいとされています。
それなのに「不足」してしまい、治療として処方されるということは、本来は自分の腸内細菌が頑張って作るべきだったのに、腸内細菌が十分な量を作れなかったためということになります。
なぜそのようなことが起こったのか? 答えはやはりお腹の谷折り線にあります。
頭の脂漏性皮膚炎の患者さんは、お腹を潰すような姿勢をしているということは前述のとおりです。つまり、腹筋がたるむような姿勢をずっとしている、ということです。ですから、腹筋は鍛えられず、腹筋不足という状態になります(だから、お腹がブヨブヨになる)。お腹の臓器(腸管)を温める働きのある腹筋が足りないということは、腸管を温めにくく、きちんと温まらない腸は十分な量のビタミンB2、B6を作れないのです。
お腹の谷折り線のある人は、お腹を下しやすい(便秘がちになったり、下痢と便秘の両方を行ったり来たりする人もいます)傾向がありますが、つまりそれだけお腹を温めることは重要なのです。ただし、外側から湯たんぽなどで温めればいいということではなく、筋肉を使って内側から温めなければなりません。
逆に言えば、お腹を潰す姿勢をすると、ビタミンB2、B6の産生工場である腸自体も物理的に潰されますし、腹部の血管やリンパ管も潰されてしまいますから、腸内細菌の働きが悪くなることは容易に想像できます。
つまり、猫背になることは、自分でお腹を潰し、健やかな皮膚を保つために必要なビタミンB2、B6を作りにくい状態に自分自身でしているということであり、どんなにビタミンB2、B6を内服してもなかなか治らないのは当然ということになります。
首の位置が悪いと首の血管も潰してしまう!?
(出典:Wikimedia Commons)
次の写真を見てください。
線を引いたかのように一直線に赤い部分と白い部分に分かれているのが分かるでしょうか?
この境界となる部分が、首の後ろの谷折り線に一致します。まるで首を絞められたときに顔だけが真っ赤になるのとそっくりだと思いませんか?
そうです。首のカーブが本来の位置からずれていると、頸の静脈が潰され、潰された部分より上の頭が真っ赤になったり、血が溜まって(うっ血)湿疹ができてしまうのです。
第2回でも書きましたが、私たちは食事から栄養や水分を摂取し、それが血液によって皮膚にまで届けられ、さらに血液が老廃物を回収することで、ようやく「カサカサすることなく、水分を保った健やかな皮膚」が維持できます。バランスのとれた食事に加え、血液が正常に循環していなければ、皮膚は不健康な状態に陥りやすいんですね。
この血液の正常な循環のために、筋肉をポンプとしてしっかり動かさなければならないのです。
ここまでで、頭の湿疹は、首の後ろが潰れていることが原因だとお分かりいただけたかと思います。次回は顔の湿疹について考えてみましょう。
【著者】
山本綾子(やまもと あやこ)
山本ファミリア皮膚科 駒沢公園 皮膚科専門医
金沢大学医学部卒業後、金沢大学皮膚科学教室入局。多くの重症アトピー性皮膚炎の治療経験から、湿疹の出る部位と姿勢・歩き方の関係に気づき、「アトピー発症機序理論」と「運動療法」を導き出す。現在、「治らない病気」とされてきたアトピー性皮膚炎を「根治できる病気」として、全国から集まる患者を、改善・根治に導き、アトピー撲滅をライフワークとしている。
病院外でも、アトピー発症機序理論の勉強会・運動療法のワークショップを実施。これまでに東京をはじめ日本全国で開催。
オフィシャルブログは「皮膚科専門医 山本 綾子 のアトピー撲滅プロジェクト」
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